ゆく年くる年

巳年はエネルギッシュに

世界中で戦火があがり、日本でもほぼ毎日といってよいほど、世間を騒がす大きな事件がある。そんな一年でしたが、なんとか皆様のおかげで今年も最後まで走り抜くことができました。来たる一年がどんな年になるのか。世界情勢を語るのはいささか無理がありますが、せめて干支の「蛇」について語りましょうか。

干支というのは、ざっくりいってしまえば暦の単位であり、そこに特別な意味はありません。ただ、来年の干支の「巳(ヘビ)」には、草木の成長が極限に達した状態を表すという意味があるとか。それだけ聞くと、なんだか良いことがありそうですね。ということで、良いことだけをみておいて、私があまり詳しくない東洋の象徴からは離れましょう。

西洋の方に目を向けると、イヴを誘惑したあの蛇をはじめとして、悪魔の使いだなんだと、嫌な象徴にされている事例が山積みです。蛇がこんなに嫌われるのは、毒があるからだとか、かつて草原へと歩み出した我らの祖先の最大の天敵だったからだ、といった本能レベルの説明が多くされていますし、砂漠の蛇の多くは確かに毒蛇なので、キリスト教やイスラム教はそうした土地の影響を受けているのだ、という説もあります。でも、本当にそうなのでしょうか。

場所が変われば

ここでキリスト教的な文化から、ギリシア・ローマ文化圏へと視点を変えてみると、我ら神秘学徒お好みの蛇の象徴がゾロゾロと出てきます。まずはオカルト研究者ならば避けて通ることのできない、ヘルメスの杖、ケリュケイオン(カドゥケス)があります。有翼の杖に二匹の蛇が絡みつくその姿は、もう有名すぎるともいえるほど。そして、杖に一匹の蛇が絡みつくのは医学の神アスクレピオスの杖。世界保健機構をはじめ、各国の救急車にも描かれている命を助ける医学の象徴です。そしてやや時代が降ったヘレニズム文化圏から後の錬金術思想では、自らの尾をくわえる永遠の象徴、ウロボロスの姿もお馴染みでしょう。

ウロボロスの銅版画
『賢者の石について』の銅版画 (Lucas Jennis, 1625)

オカルト的な視点からは、蛇は脱皮を繰り返して(つまり新たな姿に生まれ変わって)成長すること、長い間飢餓状態が続いても耐えられること、ネズミなどの害獣を駆除してくれることなどから生命力や豊穣さの象徴とされてきました。それが癒しに関連する象徴に多く現れたり、永遠を意味する文様として使われてきた理由でもあるでしょう。

視点も変えれば

また、東洋には白蛇を神の使いとして尊ぶ文化がありますし、日本の民間信仰では「金運が上がる」として、脱皮した蛇の皮を財布に入れておいたりもしますしね。だから何がなんでも蛇はダメ、なんていうことはないと思います。こんな風に、ある視点では最悪とされるものが、別の視点から見れば幸運の印、といった現象は私たちの身の回りにたくさんあるはず。巳年の来年は、それを肝に銘じて、多角的な視点をもって生きていきたいものです。

最後になりましたが、この場を借りまして、今年一年のご愛顧に感謝と御礼を捧げたいと思います。そして来年はより一層、興味深く、皆様のご要望にお応えできる活動ができますように精進していく所存です。皆様もどうぞ、良いお年をお迎えください!

著者について

ヘイズ中村は子供の頃から神秘の世界に魅せられ、長じて占い師、魔術研究家になりました。とくにトート・タロットに惹かれて『決定版・トート・タロット入門』も執筆しました。隙間時間には下手の横好きなレース編みをしたり、異次元に想いを馳せられるSF映画など楽しんだりしています。

ヘイズ中村は下記のサイトでも活躍しています。ご意見や質問などお待ちしております!