料理に込められた魔術とは

体の栄養だけじゃないんです

料理は魔術だ!という話は料理をする側の方々からよく発せられていますね。プロの料理人の方々の鮮やかな手際を見ていると、まさにその通りだと感じてしまいます。そして魔術を行う側から見た場合も、やっぱり料理は魔術ですよ、ええ。だって、目的にあった効果を出すために、それに即した材料を集めて、適した手段で加工して、最適な時間にそれを摂取して、術者の体に栄養として取り込むんですから、これはもう立派な魔術儀式ではないでしょうか。

そんな大掛かりに準備する特別な料理ではなくても、毎日、冷蔵庫を開けて「あ〜、これしかないか〜」とため息をつきながら作る料理だって、そこにはっきりと「私はこれで、自分と家族が今日を乗り切るために料理を作るんだ」といった明確な志があれば、それなりに魔術的なものだと思います。

それとはまた別に、インターネットのおかげで世界各国の毎日の家庭料理や、学校に持っていくための普通のお弁当の情報も簡単に手に入るようになりましたね。割と、大雑把なお料理の国が多い印象がありますし、家庭ではほとんど料理なんてせずに、朝・昼・晩と屋台で食べる、といったお国もあってとっても興味深いです。でもそれで我が国を振り返ると、和洋中の料理をこなして、しかも手作りが根強く推奨されているなんて、日本は家庭料理に求める水準が高すぎるし、主婦はもっと楽をしても良いのでは?という感じがしてきます。私自身は子供はいないけれど、確かに、共働き、子育て、といった激務に苛まれている主婦の皆さん、もっと手抜きしてっていうか、全体的に家事外注が許されるべきだと思いますっていうか、まずは夫もですね、という話題は今回、ちょっと棚上げにしておきましょう。

しかし、その同じ流れで 「手料理が愛情表現だ、なんて日本だけ!」 などという主張も聞こえてきますが、これはかなり違うのでは?という違和感があります。その昔、私が魔女修行にアジアの小国に行った際には、先輩の家に貧乏居候していました。そこでは確かにアジア特有の外食文化が盛んでしたが、慣れない文化の中でのトレーニングは大変だろうから、と家族の方々が毎日、あれこれと工夫して消化の良い食事を作ってくださいました。

また、幼い頃にお世話になった台湾のご家族の家では、台湾料理を基礎を私に教えながら、様々なお料理を作って食べさせてくださいました。アメリカでも、お招きいただいた家で、自家製ハーブと野菜を積んできて、素敵な菜食料理を作ってくださったり。そこにはどんな国や民族にも根底的に流れている「手料理でもてなす」という暖かい気持ちが感じられました。

もちろん、忙しいお母さんがお惣菜を買ってくるなんて愛情が足りないとか、コンビニ弁当を多く食べさせていると不良になるとか、といったくだらない言いがかりをつけるつもりはありません。かくいう私自身、都会のホテルでコンビニ弁当を広げることも多いですし、そうした外食、中食食品がとても衛生的に管理されていることもよくわかっています。

手料理こそ究極の魔法

まず、食材を自分が入手してくるのですから、どんな食材がどのように売られているのか、場合によってはどんなふうに育っているのかまで学べます。田舎ならば自家菜園で収穫するのも可能でしょう。魚や肉も、自分でさばくことはできなくても、料理済みでトレーに乗ってくるものだけをみているのと、生の食材を処理して料理していくのには、大きな違いがあります。命をいただいているのだ、という実感が出るのはどちらでしょうか?

それに精神世界に興味があるならばこそ、逆に現実面でしっかりと大地に足を踏みしめておく必要があります。自分の体が、どんな食物で構成されているのか、その食物はどんな生き物の命の犠牲の上に成り立っているのか、どんなエレメントを追加して調理されたのか。そんな大切な情報を全て、第三者に管理させてしまうのはもったいないと思いませんか?最後に、直接取り入れられる食べ物は、最も安全にかつ強力にあなたの意思を身体に届ける媒体です。いや、媒体なんて堅苦しく考えなくても、男女の差、贅沢か素朴かは関係なく「あなたのために料理したよ!」という笑顔と、それと一緒に出される料理は、嬉しいものですよね。

こうしたシチュエーションを「押し付けがましい」とか「〜〜のために、という言葉や態度は呪縛だ」などと思うのであれば、それは料理という行為そのものではなく、これまでの対人関係など問題があるのではないでしょうか。根本的な問題を放置して手料理に八つ当たりしても何も解決しません。それに手料理はシェフの料理ではありませんから、少しくらい焦げていたりしても、それはご愛嬌。だんだん、上手になっていこうと努力すればいいだけです。その過程で使ったエネルギーもまた、これから作る料理へ加算されていくはずです。

料理の魔術。それは自分のトレーニングと上達がはっきりと確認できること、そして普通の方にも堂々と披露できること、そして何よりも成果をみんなで楽しめることから、楽しく気軽に実践できる魔術だと思います。薄暗い部屋で呪文を唱えるのだけが魔術だ、などと思わずに、毎日実践できるトレーニングとして考えてみませんか?

著者について

ヘイズ中村は子供の頃から神秘の世界に魅せられ、長じて占い師、魔術研究家になりました。とくにトート・タロットに惹かれて『決定版・トート・タロット入門』も執筆しました。隙間時間には下手の横好きなレース編みをしたり、異次元に想いを馳せられるSF映画など楽しんだりしています。

ヘイズ中村は下記のサイトでも活躍しています。ご意見や質問などお待ちしております!