魔術的行動と最適解

人との違いを認める必要性

魔術的な行動、というと、魔法円の中に立ってワンドを振り回す姿を想像する人が多いかもしれません。でも実際にはそんなケースはとてもまれ。それよりは、日常の行動を「汝が志すことを行う」というつもりで動いていくことこそが、魔術的行動と考えられるのですが、さてさて、それを実際の現実生活の中でどう実行していくかということになると、問題は山積みなのです。そんなとき、どうすれば実践しやすいのかを考えてみました。

「汝が志すことを行う」のは重要ですし、確かに聞こえもいいですが、これを実際に毎日の生活に応用するとなると具体的にはどんな行動になるのでしょうか。もちろん、長期的な人生そのものの目標もあるでしょうが、それはちょっと棚上げにして考えると、志すこと=毎日の仕事や作業、といったものを、あなたが考える最も効率的でスムーズな方法で行っていくこと、といえるかもしれません。いわば、どんな些細な行動であっても、それに対する「最適解」を考えて、実行していく、とも言い換えられそうに思います。そんな積み重ねが効率的な毎日になり、ひいては自分の「大いなる業」の実現への近道になっていく。これが理想的な状態でしょう。

まあ、実は私も若い頃はそう確信しまくっていたのですよ、ええ。そして、部屋の掃除からその日の仕事まで、最も効率的に動くぞ!などと力んでいました。でも実際に社会に出てみると、初日からそうはいかないのを嫌というほど、実感させられました。だって、無人島にでも生きていない限り、自分が導き出した最適解なんて、同僚の動き方や、上司からの命令で一瞬にして崩れていってしまいます。今日はこの資料を揃えるところから始めよう、といったシンプルな計画だって、病休をとった同僚のカバーに入ったり、その日の朝に上司が思いついた「新しい働き方」でおじゃんにされたり、ということの繰り返し。全ての可能性に対応できる最適解を導き出すなんて、アニメの世界にしか存在しません。じゃあ、会社では難しくても自宅では可能なのではないか?と視点を変えてみましょうか。確かに家庭での雑事をこなすためには、面倒なルールはあまりありませんし、例えば一週間の食事だって先立ってメニューを考えて買い出しておけば、より効率的なのでは??

環境は制御できません

これは一人暮らしならば、部分的には可能かもしれません。一週間のスケジュールが決まったら、それにそって食料を購入して作り置きなどをしておけば効率的でしょうし、毎日の家事の大半を占める炊事にエネルギーを浪費することなく、重要な勉強などに時間を割けるはずです。しかしここでは一つ、経済的な問題が立ちはだかります。日本は、先進国の中ではダントツに食料品の値段の上下が激しい国です。おそらくは海の様子に左右される魚食がメインだった頃の名残なのでしょうが、いつも同じ値段のお肉、お魚、お野菜、とはいきません。前もって献立をガッチリ決めてしまえば、その分、低価格の食品で経済的な生活をする、ということは叶わなくなりますね。買い出しに行った日のお肉の値段、といった環境まではどうやってもコントロールできませんから。

そして同居人がいれば、スケジュールを立てる段階から意見が合わなかったりしてより苦労が増えますし、いざ用意をしていても「今日はそんな気分じゃない」とか「こっちの方が食べたい」といった要望がくることも出てきて、計画なんてなきに等しいものになっていくでしょう。ましてやこれが、小さなお子さんがいるご家庭ならば、毎日がまさに波瀾万丈&カオスの海を泳ぎ切るような毎日になるはず。スケジュール?それって何、美味しいの??ではないでしょうか。そんな毎日が続けば、毎日の行動での志、最適解なんて、何も考えずに流されることにあり!!とか開き直ってしまいたくもなるでしょう。

独りではないからこそ

では日常では「汝の志すこと」は全て放り出すべきでしょうか。ええ、確かにそうしたくなることも多いですけれど、諦めずに考えてみましょう。分かりやすくするために、保育園児のお子さんがいるご家庭で、働く親であるあなたはどうすれば最適解を掲げて動けるのか、という例題にしてみます。まず、あなたの「志」を徹底的に吟味する必要があります。子供が泣き喚こうがどうしようが、強制的に食事と着替えを済ませ、時間通りに保育園に引きずっても連れて行き、会社に早めに着いてバリバリの一日を始めたいのか。あるいは、子供の自主性を尊重して、ときにはゆったりと時間を忘れて子供と過ごしながら、無理のない範囲で時短勤務などをしていきたいのか。こうやって白黒で分けてしまえば、一見、どちらかを選べるように思えるかもしれません。でも、その間、パートナーとの協力関係はどうしていくの?とか、効率よく働いても子供の心を傷つけてしまうのでは?とか、親子の関係は良くなっても、時短勤務やパートでは経済的に不安なのでは?といったハードルが津波のように押し寄せてくるはずです。

全ての問題を予見することはできませんし、全ての環境をコントロールすることもできません。そうしたときこそ、自分にとっての最適解を出すために何が一番重要なのか、を決めるしかないでしょう。ここで「家族みんなが笑顔でいられるように」なんていう、陳腐な起業ブログみたいなことはしないのがコツ。それではなにも決まりません。腹を括って「今は稼ぐことが重要」であるとか「今は子供のケアを最優先にする」などと一点に絞って決めましょう。そして春分や秋分といったキリの良い時期に、これから半年はこのために動く、それを人生の最適解とする!と宣言してしまうのはどうでしょうか。そう、これぞ魔術的宣言です。その宣言にパートナーなどがどう反応するかは分かりませんし、賛成を押し付けることもできません。もちろん、話し合う必要もあるでしょう。でもそのときに、相手を強引に説き伏せようとはしないでください。たとえ相手が魔術に関心がなかったとしても、その人の考え=志ですから、それをあなたが否定することはできません。たとえ、折り合えなかったにしても、あなたにとって半年間の宣言があることは、今後半年の生き方の最適解を見つけるにはとても有効なはずです。

周囲から理解を得られなくても、別の意見が来ても、それを責めたり、批判したりしないようにしましょう。誰にだって、自分にとって最適の行動パターンがあるのです。それがよほど破滅的なものではない限り、その世界に土足で踏み込んで批判することはできません。人の考えを無理やり捻じ曲げることこそ、真の黒魔術です。そんなことのために力を使ってはいけませんし、その方向に足を踏み出せば、あなたは精神的な暴君になり、巡りめぐっては自分を傷つける結果にもなるでしょう。あなたはあくまでも自分の宣言を実行しながら、周囲の人々や環境との折り合いをつけていくことしかできません。焦ったくても周囲の志を尊重しながら動くことこそが「愛こそ法なり、志しの下の愛こそが」でもあるはずです。そして、自分の志と相手の志のバランスをとるように配慮していくのが、日常でできる自己防衛術ともなるのではないでしょうか。

なんだか歯切れが悪いなぁ、もっとスッキリしたやり方、それこそ「最適解」が知りたいよ、と思われる人も多いでしょう。でも実際、テキパキとした行動だけができる歯切れの良い人生なんてありませんよね?毎日の小さな積み重ね、やってみる価値はあると思います。

著者について

ヘイズ中村は子供の頃から神秘の世界に魅せられ、長じて占い師、魔術研究家になりました。とくにトート・タロットに惹かれて『決定版・トート・タロット入門』も執筆しました。隙間時間には下手の横好きなレース編みをしたり、異次元に想いを馳せられるSF映画など楽しんだりしています。

ヘイズ中村は下記のサイトでも活躍しています。ご意見や質問などお待ちしております!