断捨離と魔女術
整理整頓を魔女的に考えてみる
講座の後のお茶会や、気軽な仲間同士の会話でよく出てくる愚痴のナンバーワンは、家の中が片付かない、です。年代によっては「そろそろ終活を考えてものを減らさなきゃ」といった話題にシフトすることも少なくありません。確かに、整理整頓は狭い日本の住宅では永遠の課題でしょう。そこに引っ掛けたお片付けプラス開運法として一斉を風靡したのが断捨離ですし、今では普通の言葉としても根付いています。今回は魔女的な視点から、断捨離的行動について語っていきます。
今回、このブログを書くためにちょっと調べたら、断捨離という日本語自体は、七十年代のヨガの書籍から始まったとか!でも、一般的にはここ二十年くらいに広まったお片付けプラス開運法として有名です。ここでは、断捨離とはちょっと違った魔女術的な見地からの整理整頓を考えてみます。まず最初にお断りしておきたいのは、伝統的(とされる)魔女術には整理整頓とかお掃除術的なものはありません。産婆として働くことが多かった最初の魔女たちは非常に貧しく、整理するほどの家財道具などがありませんでした。そして、魔女術が復興した頃には、儀式などが注目されるばかりで、思想面以外での魔女たちの日常生活は放置でした。毎日の生活などが語られる様になったのは、実際のところ八十年代以降ではないでしょうか。そしてその頃には、頭でっかちな傾向が強かった西洋神秘学として始まった魔術や魔女術も、日々の暮らしに重きをおく東洋神秘学の世界観や生活哲学をどっぷりと取り込み終えていました。結果的に、今、魔女たちのお掃除云々と称しているもののほとんどは、その基盤を東洋の禅やヨガ実践者の生き方に持っているといっても過言ではありません。ということで、根っこはほとんど同じものであり、日本人にとってさほど目新しい思想ではありません。
捨てるより再利用を
偉そうにこのブログを書き始めたは良いものの、私自身、そんなに整理整頓は得意じゃありません(じっと自分の部屋を見回しながら)。私の両親は戦争で物不足な時代を経験していましたから、豊かな時代になると堰を切ったように物を買い込んでいました。でも、戦時中の経験が強かったため、古い品物を処分することもできず、結果的に物に埋もれた生活を送っていました。おそらくはこの世代共通の特徴でしょう。そんな中で育った私もまた、物の捨てどきなどを考えねばならないということさえわからず、物が増えれば棚や戸棚を増やして、ただ詰め込むということをしていました。やがて家を出て、夫と暮らす様になってから、物の整理の基準や、不用品をどの様に扱うか、といった考えそのものに触れるようになり、三十路になってからやっと、身の回りの整理らしきものが少しできるようになったきた、というのが実情です。そして、その過程で、物を減らして家中を整理することで、仕事が早くなるだけではなく、食材の無駄なども無くして、節約にも効果的なのだなということが分かりました。
さてさて。最近はやりのお片付け術では、多すぎるものを捨てる、処分するというのが大前提になっているように思えて仕方がありません。もちろん、片付けている間に、子供時代のボロボロのおもちゃなどが出てきたら、捨てるしかないのはわかります。逆にそんなものを再利用しようとするのは、時間の無駄ですし、下手をしたら衛生的にも問題が出てくるでしょう。でも、まだまだ着られる洋服が「時代遅れだから、サイズアウトしたから」というだけでゴミ袋に押し込められたり、新品同然の雑誌や書籍がゴミ箱に捨てられているのを目にすることが少なくありません。賞味期限が過ぎたから、と大量の食べ物や素材が捨てられているのもありふれた毎日です。こうした風景を見るたびに、どれもたった一つしかない「母なる大地」から作り出された物なのに、それをただただ消費して、最後は単に投げ捨ててしまう、という悲しい流れに胸が痛くなって仕方がないのも事実なのです。あなたがもし、自分の血や肉を削って誰かに食料として提供するような究極の状況になったとしましょう。なのに相手がそれを大切に利用せず「あ、賞味期限過ぎちゃった」と投げ捨てたりしたら、どれほど心が張り裂ける様な思いをするか、想像できるのではないでしょうか。私たちは、それに等しい行為を、日々、大地の女神に対して行っているのです。
まずは減らさないと
とはいっても、整理整頓を考えるならばまずは最初にある程度の物品を減らさないと、身動きも取れないというのが我らウサギ小屋住民の実情です。そんなとき、どうすれば少しでも女神の恵みを無駄にしないでいられるのでしょうか。私自身の経験も踏まえて、考えていきますね。無駄にしない、ということを最優先に考えると、やはり賞味期限や使用期限のあるものから手をつけていくようにするのがベスト。だから初めはやっぱり、食品からです。冷蔵庫の中はもちろん、しまってある保存食品なども一度、全部外に出してみましょう。あとは簡単、賞味期限の早いものから食べるようにして、それから自分なりの規則を作って、賞味期限順に食品をしまい直せばいいだけ。整理を始めた最初のうちは不思議な組み合わせのメニューが続くかもしれませんが、そんなに長い間のことではありませんから、ガマンガマン。賞味期限が切れたものは処分するしかありませんが、油なら手作り石鹸に使えますし、庭が広ければ堆肥として再生することも可能です。
意外な盲点になるのが、洗剤や石鹸、そして化粧品類ではないでしょうか。買ってはみたものの使用感がイマイチだったとか、似合わない色味だったとかで放置してあるものがかなり、あるはず。これも、全部、引っ張り出して並べてみましょう。使用期限が過ぎたものは捨てるしかないでしょうけれど、それ以外のものは思い切って毎日使って終わりにしてしまうのも悪くありませんし、シャドーやマニュキュアなどのメイクアップ用品は、ネットで探せば使いかけでも寄付を受けつけてくれる団体もけっこうあります。捨てるにしても、かなり処分が面倒なのもこうしたグッズの特徴です。あー、面倒だ、と思って捨てる時間は、本当に自分に必要なものだったのかな、ということを熟考できる時間にもなるでしょう。
腐らないものはゆっくり
ここまできたら、あとは本丸の書籍や洋服の整理に取り掛かれます。きっと勢いがついていて、でやー!っと全部ゴミ袋に投げ入れたくなるでしょうが、深呼吸して落ち着いてください。服も書籍も再利用しやすい物品です。ホコリや汚れを払ってから、ネットのフリマサイトなどに出品するのも良いでしょうし、地域のフリマや寄付活動をしている団体を利用するのもおすすめです。本や洋服は腐りませんから、焦ることはありません。もしもあなたが終活を考えているのであれば、趣味の似ている人に譲るというのも悪くありません。工夫してもどうしても行き先がないものは資源ごみとして分別したり、洋服ならウェスにしたりすれば、最後まで使い尽くすことも可能ですよね。
こうして物を有意義に減らし終えると、整理整頓や掃除がしやすくなるのはもちろんなのですが、なぜか空いたところに新しい「何か」が入ってくるものです。そしてその「何か」は、これまでどうしても手に入らなかった品物だったり、今までより条件の良い仕事だったり、びっくりする様な楽しい体験だったりします。また、新しい愛情や友情がやってくることも多いと聞きます。たとえ終活であっても、きっと胸躍る何かが待っているはず。そんな気持ちで整理整頓を始めてみませんか?