土地と慣習と呪術

時代遅れな感覚に縛られていませんか?

長く続いた COVID-19 の規制が徐々に溶け始め、街にはまた外国からの旅行客が溢れるようになりました。東京の浅草寺では見様見真似でお線香の煙を浴びて参拝する異国の方々も見受けられます。みなさん、それによって何らかのご利益を願っておられるのか、はたまた単なる興味本位なのか。こうした風景を微笑ましいと感じたり、あるいは人によっては違和感を感じたりもされるようですね。なぜ、日本人がやっていればごく自然な行為を、他の国の方々がなさるとそんなふうに感じるのか。そこを突き詰めていくと文化や民族ごとに使える呪術が限定されるのではないか、という問題が浮かんできます。

かつては呪術や開運法は門外秘伝であったり、一定の場所に長く住まう、あるいは一定の集団に長く所属しないと使えない、という条件が付いていたものがほとんどだったように感じています。さすがに一定の修行や精神的な準備が要求される呪術の方には今でもそれなりの制限があるようですが、インターネットの発展が歴史的な垣根を打ち壊し、昨今では様々な開運法が巷に溢れているようです。もちろん、ネットの常でその内容は玉石混交ですし、歴史なんて気にもかけないお気軽なものもたくさん、見受けられます。

私自身はあまりそうしたインスタント開運法には興味がないのですが、それでも耳にした中では、窓辺に温泉まんじゅうとリンゴ、紅茶をおいてお祈りをすると、大天使ミカエルがその人の家にやってきて二週間ほど滞在してくれるという摩訶不思議なものもありました。そのようにしてお招きした大天使ミカエルがどんな奇跡を見せてくれるのかと尋ねると、肩こりを治してくださるのだとか。神の右腕とまで呼ばれる大天使ミカエルにお願いする奇跡としては慎ましいというか、みみっちい(失礼!)というか。どちらにしても、役不足の感は否めません。それにこのように天使云々、守護天使だなんだと騒いでいる日本のスピリチュアル界隈の皆様は、一体どれくらいが本当のクリスチャンなんでしょうかね? 

おっとっと、そちらの方向に話を持っていってしまうとまた延々と老婆の愚痴が始まりそうですので、今回はこれとはちょっと視点を変えたお話をしようかと思います。精神世界に何十年も首まで浸かっていれば、様々な開運法を紹介されたり、試したりするチャンスに恵まれるのは当然です。もちろん私は、そうした手法には興味津々なわけですし、自分自身を振り返ってみればお金持ちでも健康でもないので、改善したいところは山盛りにあるという。そんなわけで、信頼する術師さんから歴史的な根拠のある手法を紹介されれば、いそいそと開運法を試してみるのも、また当然なのです。しかし、しかしですね、ここからが大きな問題の始まりなのです。日本に住んでいる以上、私にそうした開運方法を紹介してくださる方は、圧倒的に東洋系の術を使う方々です。普段学んでいる西洋魔術とは異なる、墨書された護符などはそれなりにオカルト好きな心をくすぐるものがあるのは、間違いありません。でも私がうきうきとこのような東洋系の開運法試してみても、なぜかほとんど効果がないのです。

これは、決して東洋の術が無力だということではありません。私にそうした術を教えてくださる方々はしっかりとした歴史上の技法を学び、修行を納め、ご自身でも実践して効果があるとわかったものだけを紹介してくださっています。それに実際、周囲にはそれで効果を出している方々がたくさんおられるのですし。それなのに何の効果も感じない、ってことは私が鈍すぎるのでしょうか?それとも、単に運が悪すぎてどうしようもないのでしょうか。

球体に東西は存在しない

ここで何よりも強調したいのは、便宜上、東洋系、西洋系といった言葉で区切りを入れていますが、こうした区切りは本来人工的なものだ、ということです。丸い地球上に(決して円盤ではありませんし)ここからが西でここからが東だ、などという切れ目が入っているわけでもありません。あくまでも過去の地政学上での視点や、歴史的な背景からの違いがあるだけです。それにきっと今後は、その境界線はかなりの速度で曖昧になっていくでしょう。そしてもう一点。話をわかりやすくするために、開運法も呪術の一種類と定義した方が良さそうです。そのような前提でここからのお話を進めていくことをお許しください。

私が東洋系の術が効かない、と悩んでいるうちに、同じようなことをぼやいている友人の意見が届きました。彼女はイギリス在住の西洋人ですが、長く東洋の地に住んでいた風水の実践者で数々の著作も表している人です。彼女は今、イギリスで東洋と西洋の技法をうまく一致させる研究をしたり、魔女を志す人たちからの相談を受けたりしているそうです。私よりも長い経験を積んでいる人なのですが、彼女はな、なんと、西洋系の開運法って、全然、効果ないんだけれど、どうしてなのだろうと感じているというではありませんか!彼女と私、というたった二例では物事を判断する材料になるわけではありません。あくまでも思考の種としてあげているだけです。

さて、長期間の研究をしたわけでもないので断言はできませんが、基本的に呪術というものは術を使う人間の意識を操作してなんらかの変革を起こすものだと考えて良いでしょう。そうなると、その文化圏によくある思い込みや行動パターンなどをモデルに、術も組み立てられているはずでして。ならば、そのパターンから、なんらかの理由で大きく外れて生きている人間には、効果がないか極端に小さい、ということになっても不思議はないかもしれません。どんな人間も一人で生きているわけではありません。よく使われる金運向上の開運法を考えてみればわかるように、あなた一人の体からお金が自然に湧きでてくるわけではなく、何らか状況であなたの周囲のお金の流れが変わる必要があります。そうなると、今、あなたが住んでいる文化圏の慣習や考え方、社会の動き方などにフォーカスしている呪法の方が、迅速な効果が現れるのはなんら不思議ではありません。とはいえ、それを使う術師自身がその考え方に同調できなければ、流れるエネルギーを操るどころか、それをうまく感じることもできず、結局は何も起こらないということに終わるのは当然でしょう。

という話をすると、めったやたらと人種差別的な方向に走りたがる一部の方々もおられますね。西洋人には東洋の精神世界はわからないとか、なんとか。私がこの記事を書いているのは、そうした方々への反論例を挙げる意味もあります。日本人である私は東洋の呪術が使えず、西洋人である友人は西洋の呪術の効果が感じられていません。つまり、人種的、DNA的なものがブロックになっているわけではないのです。第一、これだけDNA解析などが進んできた現代では、人種云々などと言い出すこと自体が噴飯物です。肌や見た目の違いで分けられてきた人種の違いなど、DNAレベルで見たら、あなたと長年親しく交流してきたお隣さんとの違いより小さいのですから。

ということで、やっぱり呪術の効果はその術師がどのように世界を捉えているか、というあくまでも個人レベルの精神世界に基づいているのではないか、といえそうな気がしませんか。さらにここでもう一つの要素である「土地」について考えてみましょう。風水のように土地の形状そのものを利用する呪術の場合は、やはりその土地の力に左右されるのではないか、という点です。例えば前述の友人は風水の術師でもありますから、イギリスに住んでから長年学んできた東洋の風水の知識だけでは現地の案件には対応しにくい、とも言っていました。その土地独特の風向きや川の流れ、またそこに住む人々と土地の結びつき、といったことがどれも違っているからです。

しかし、あー、これじゃだめだ、で諦めなかったのが彼女の凄いところ。自分が風水の術を施すことになった土地へ実際に赴き、裸足でその土地を歩き回って気の流れを確かめ、といったことを繰り返すうちに、イギリスの地でも使える風水を確立しつつある、という話をしていました。要するに土地の性質には作用されますが、それはあくまでも使う人間が他の土地の常識を押し付けようとするのが問題であり、その土地に合わせて応用できる技能、つまりその術の本質を理解しているか否か、にかかってくるのではないでしょうか。

土地の力と人の意識

こうした風土や民族に関する話題を考えると、私が想起するのは世界各地に建立されている中華街のことです。日本でも横浜や神戸の中華街は、その地に溶け込みながらもほのかな異国情緒を漂わせていて、観光地としても賑わい続けていますね。でもこの中華街がそのまま中華人民共和国の租界になっているというわけではありませんし、そんなことは土台、無理な話です。中華街が街として有効なのは、単にドーン!と異文化をそこに放り込んだのではなく、その土地にあるものを活用し、その土地にすでに住んでいた人々の考えを尊重しながら、その場所独特のいわば「新中華街」を土地ごとに作り上げてきたからではないでしょうか。そしてそれを行なってきたのは、そこを建立し、生活している人々の「意識」なのです。

前述したようにこれからはどんどん、世界の中での文化的な垣根は壊れていくでしょう。精神世界でも東洋人だから東洋系の術を、などと主張する根拠もなくなっていくはず。人間の周りの環境を変え、何らかの効果を起こしていくのは常に人間の考え方に依存しているのですから。そしてそんなことはできない、文化や人種の差は動かせないものだ、と考える方々は、世界各地にある中華街の興隆と繁栄をも認められないと言い続けるのでしょうか?

国家や地域、あるいは民族といった大きな問題について語りましたが、一朝一夕に結論が出るようなことではありません。今回はあくまでも、私自身と古くからの友人が感じている感想に基づいた考察です。読んでくださっている皆さんも、その点では感じるところが少なくないものかとも思います。ご意見やご感想をお寄せいただければ幸いです。

著者について

ヘイズ中村は子供の頃から神秘の世界に魅せられ、長じて占い師、魔術研究家になりました。とくにトート・タロットに惹かれて『決定版・トート・タロット入門』も執筆しました。隙間時間には下手の横好きなレース編みをしたり、異次元に想いを馳せられるSF映画など楽しんだりしています。

ヘイズ中村は下記のサイトでも活躍しています。ご意見や質問などお待ちしております!