現代芸術と魔術の繋がり
映画にもヒントはあります
このところ連載している「魔術の基礎」を作るための、魔術書以外の読書目録も、そろそろ終わりに近づいてきました。これまでは主に、西洋近代魔術の復興以前の文化に焦点を当ててきました。文字通り、魔術の「土台」です。でも、西洋魔術は今、この瞬間にもさまざまな方面へと進化を遂げています。今回はそうした側面に焦点を当ててみましょう。
冷静に考えると、今現在、魔術的なアイデアやトリックの出てこないファンタジー作品や、ゲームなどは逆に少ないくらいかもしれません。とはいえ、これは魔術を取り入れている方のものでし、ブログで取り上げるにも膨大な数になり過ぎてしまうので、今回はちょっと素通りさせてください。ここでお話しするのは、その作品が魔術の理解を深めてくれたり、あるいは読書だけではイメージがつかみにくかったりする技法をよりよく理解させてくれるものです。また、二十世紀後半にはじまってきた混沌魔術などに影響を与えた作品もあげておきましょう。
ただそれだけに、今回お話しする文学や映像作品は魔術の正しい姿を全て描いている、というわけではありません。その辺りの線引きはご自身でしてください。イメージだけを受け取るのもよし、あるいは細部まで読み込んで意外な発見をしてニンマリするのも面白いでしょう。どちらにしても、堅苦しい本ばっかり!の重積から逃れられるのは保証します。なお、今回はあえて『ソロモンの大鍵』などの魔術書はあげません。あくまでも魔術の周辺知識、ということでお話ししていきます。
無視ではありませんが
魔術結社ゴールデン・ドーンに関連していたアーサー・マッケンやブラックウッド、またディオン・フォーチュン自身やアレイスター・クロウリー自身が書いた一連のオカルト小説は、特にここではご紹介しません。あえてしなくてもみなさん、きっと読むでしょ?と思ってますので、余計なことはしないでおこう、と。あとオカルト・ホラーの巨匠であるラヴクラフトの『クトゥルフ神話』も同じ理由で入れていません。クトゥルフ神話に関しては、ネクロノミコンは実在しないんだよ、というだけに留めておきます。
ハリー・ポッター・シリーズはどうぞご自由に解釈してください。小説も映画も、とても面白いエンターテイメント作品です。でも、そこから何かを学べるか、となると、感情も何もコントロールできないままで魔術やっても碌な結果にならんぞ、ということくらいかもしれません。
お勧めの映画は
まずは映像作品からいきましょうか。もちろん、うんざりするくらい作られている、訳のわからないオカルトもどきの作品は無視しておきます。何を基準にその判断をしているのかとなると、まあ、正直なところ、単なる私の独断ですので、ここに挙がっていないものを見るな、とは口が裂けても言いません。ただ、あんまり参考にはならない可能性は理解しておいてくださいね、
最近ではアメリカでバーニングマンという大掛かりなイベントが催され、人気を博しています。直接の始まりはヒッピー・ムーヴメントにあるようですが、そこに込められたペイガン的な発想や原点がよく見えてくるのが、1973 年にリリースされたクリストファー・リー主演の『ウィッカー・マン』という映画でしょう。メイポールの周りを回る少女や、踊りながら焚き火を飛び越えるところなど、ワスブルギスナイト前後の祝祭などがあまり飾りをつけずに描写されていますし、余計なサスペンス的なものも少なめです。この映画は 2006 年にリメイクされていますが、魔術的にはオリジナルが参考になります。
このブログでは最初から『聖書』が避けて通れない、という話を何度もしてきました。それに関連してはロック・ミュージカルの『ジーザス・クライスト・スーパースター』が楽しく学べるかもしれません。とくに、イエス・キリストを裏切るユダは大悪人なのか、それともキリスト教世界最大の殉教者なのか、といった論争にも興味が湧くこと、請け合いでしょう。これもいくつかのバージョンがありますが、オリジナルの 1973 年版が一押し!です。
近年のものではテレビシリーズの『レギオン』がよくできているなと思いました。え?誰ですか、また「主演のダン・スティーブンスが好みだからでしょ」なんて言ってるのは??ええ、もちろんそうですよ(開き直る私)、それよりなにより作品がいいんです。ここで描かれる多くの幻想シーンは、アストラル界にはまり込んでしまったときの描写として秀逸!その怖さもまた、実感できる作品です。
サブカル的な小説でも
ここでちょっと時代を戻します。混沌魔術に興味を持っている人ならば、マイケル・ムアコックの作品群は無視できないでしょう。なんといっても、彼は混沌魔術の創始者たちと深い交流があった人ですし、代表作の「エターナルチャンピオン」シリーズの時間軸の目まぐるしさにも興味深いものがあります。とくにイエス・キリストを扱った『この人を見よ』は無視することはできませんね。
魔女の理想系(?)的な姿がベネ・ジェソリットとして描かれているのが、名作『デューン』でしょうか。最新の映画もかなりムードは掴めていますが、その仕組みとトレーニングまでわかるという点では、小説の方を読み込んでいただく方が良いでしょう。
そしてほぼ全てのオカルティストの座右の銘といっても決して過言ではないのが、J・R・R・トールキンの不朽の名作『指輪物語』。現代ファンタジーの基盤を作った名作ですが、発表された頃はヒッピー小説、とも呼ばれていたとか!この名作は人智を超えた強大な力をどう扱うべきか、それが一般人にどう働くのか、をよく教えてくれるでしょう。映画にもなっていますが、映画では重要なところがすっぱり切り落とされてしまっていますので、映画版のアラゴルンやレゴラスの魅力はちょっと棚上げにして、やはり原作を書籍でじっくりと読み込んでいくのが重要かなと思います。分厚い本ですが、楽しいのでどんどん読めますよ!
『指輪物語』の話をすると、必ずといっていいほd『ナルニア国物語』はどうですか?という質問が来るんですが、私、正直にいってしまうとナルニアはさわりしか読んでないのです(のれなかった)。名作なのは間違いないと思いますが、そこから魔術的な何かが汲み取れるかは、ごめんなさい、わかりません。
ヘイズの超お勧めは
そして最後、日本ではあまり翻訳されていないのですが、テリー・プラチェットが書いた『ディスクワールド・シリーズ』は、ぜひ、ぜひ、ぜひ、読んでいただきたいファンタジーとして挙げておきます。大きな亀と象が支える円盤状の世界である「ディスク」で繰り広げられるコミカルなストリーの中に、魔術に関する深い洞察がこれでもか、といわんばかりに詰め込まれています。ここには魔術師たちが活躍するストーリー、普通の人々のストーリーなど多彩な視点があるのですが、私がその中でも特にお勧めするのが、彼が描き出す魔女たちの生き生きとした姿とその哲学です。魔女ってなに?何をどうすればいいの?と悩んでいる人たちは、きっと彼の作品に救われると思います。楽しんで視野を広げていってください。