老婆として生きる

年齢にとらわれず、逆らわずに

誰だって、自分はまだまだ若い、イケる!と考えて生きていきたいものです。しかも最近では、社会でも年齢による偏見は少なくなり、できる限りアクティブに活動することが推奨されています。しかしその反面、魔女術の世界では人生を乙女・母・老婆という三段階に区切って考えてもきました。時代遅れの考えだとして捨て去るべきなのでしょうか?それともそこには変わることのない「何か」があるのでしょうか。

乙女・母・老婆。これが魔女術でとなえる一般的な人生の三位相ではありますが、私は子供は産んでいないし、幼い頃から体力がなかったので、正直、ずっとクローンに近い気持ちで生きてきたというのが正直なところです。とはいえ、この中でクローンの美徳は年齢を重ねてきた知恵、とされていますから、そこにはさすがに到達できないよなぁ、頑張らなきゃ、と考え続けてもきました。そして、実質的にその年齢に達した今、知恵が身についたかというとですね、いやまあ、そこは突っ込むのはやめておきましょう。っていうか、私はもう賢者だ!!なんて宣言するようになったら、それこそ怖いですよね。

なんでいきなりこんなことを言い出したかというと、実は一ヶ月ほど前に、海外の最新魔女事情などを詳しく研究・実践されている魔女、円香さんとお話しするチャンスがあったからなのです。彼女とは、もうずいぶん前にお目にかかって少し会話をした程度だったのですが、ひょんなことからじっくりとお話しするチャンスとお時間をいただけました。日頃から彼女のエネルギッシュな活動はSNSで楽しく拝見していましたので、お声をかけていただいたときは、やったね!と嬉しかったのを覚えています。

しかし、その反面、疲れるなぁ、と不安だったのも事実でした。魔女術は一人一派ともいわれるほど、個々人で捉え方がことなるもの。ということは、二人の魔女が真剣に話し込めば否応なく相違するポイントも出てくるのは当然でしょう。この場合、どちらが正しいかどうかといった点にはこだわらないとしても、それなりにエネルギーが必要で消耗する会話になるのは経験上、よく知っていましたし、そのような濃密な魔女同士の交流から離れても久しかったので、気が重かったのは確かなのです。

そんな複雑な気分でお目にかかった円香さんでしたが、実際に会話が始まると彼女の言葉の端々から溢れ出る熱量と、真摯な姿勢に圧倒されて、そんな心配は吹っ飛んでしまいました。彼女の綿密なリサーチから提供される海外魔女たちの最近の活躍や、新しく発見された事実などはとても興味深く、時を忘れて聞き入ることができました。もちろん、彼女と私の考えが完全に同調したというわけではありません。そんなことが気にならないくらい楽しかったんだ、というのが本音でした。

時間も忘れて話し込み、久しぶりに魔女術の専門用語が飛び交うムードも楽しんだ夜が終わり、円香さんにさようなら、を告げて独りになったホテルの部屋。そこで私の胸にはすっと「ああ、私は本当にクローンになったんだ」という気持ちが降りてきたのです。

最近の変化は

前述したように、彼女とは完全に意見が一致したわけではありません。若い頃の私だったら口角泡を飛ばして自分の意見を声高に主張していたことでしょう。でも今回は、そんなことをする気にならなかった、というよりは異なった意見を楽しく聞いて、それで納得し、かつ充実した時間が過ごせたのです。そしてそれと同時に、最近、自分が無理をしていたな、というのもスッキリと納得できました。講座などで生徒さんから、最新の海外魔女事情を訊かれることがあるので、それなりにリサーチはしていました。でも、だんだんとその作業に以前のような興味が持てなくなり、義務感の方が強くなってきていたのです。もちろん、新しいことに興味は尽きないのですが、それを自分の内面に取り込んでしっかりと解釈する知的体力が減ってきていたのでしょう。でもそれを、自分ではわかっていなかったのか、あるいは単に認めたくなかったのか。それがこの出会いのおかげで、そんな変化も素直に受け止めることができたのです。

ああ、私はもう、外に勢いよく出て行く乙女でも、自分の中に新たな命を育むことができる母でもない。自分の魔女小屋の中に静かに座り、記憶のカルドロンを掻き回しながら、ゆっくりと過去の記録を整理して、残せるものとそうではないものを分別して行く時期に入ったのだ。自分の中にそんな声が響くのを感じると、肩の力がふっと抜けて、リラックスできたのを感じました。数字上の年齢がどうの、という表面的なことではなく、人生の段階としてそれが相応しくなった、と自分自身が納得したのです。

ここから先は、あくまでも私という一個人にとっての感慨であり、他の魔女たちには関係ないことです。私に降りてきたここでの「納得」には、若い頃に恐れていたような寂しさや不安感はありませんでした。逆に、これからの自分がどのような行動をとって行くべきなのか、そしてそのためにはどんな思想、態度、生活の配分などをするべきなのか、というのもはっきりと道筋が見えてくるような気がしたものです。魔術的な表現をすれば、自分の志が見えてくる瞬間だった、ともいえるかもしれません。そしてその志とは、自分の衰えてきた身体に正直に、クローンとしてしっかり生きていこう、というものでした。

とはいっても、じゃあ何をすればいいんだ、ですね。冷静になって考えてみると、現代のクローンは家の中だけにいるわけにはいかないような気もします。逆に、どんなに歳を取っても、いや歳を取ったからこそ、時代を超えても変わらない事柄を次の世代に託す行動は必要でしょう。また、若い世代の魔女さんたちが刺激的な情報を集めて分析していく傍らで、昔から続いてきた基礎的な知識や考え方、といった地味な事柄を保存し、興味を持った人に伝えて行くという、やや退屈で繰返しの多い作業もクローンに向いているように思うのです。

心配はしないで

ということで、これからの私は自分のエネルギーをそうした地味な作業に多くむけて行くようになる気がします。とはいっても、そうした役割を負っている人は案外、数が少ない様子なので、まだまだ暖炉のそばで犬を撫でて(イメージ違ってごめんなさい、私、犬派なんです)楽隠居を決め込むわけにはいかないでしょう。だから引退するようなことはありませんし、これからも、色々なところに首を突っ込んで、ああでもない、こうでもない、と意見を言って回ると思います。それにきっと、クローンとして若い人たちの相談にも乗らなきゃいけないでしょうしね。また、これまで延ばし延ばしにしてきた書籍も、死ぬ前に(!)書き上げられるようにスケジュールを考えていかねばならないな、と決意を固めました。なんだかんだと小忙しく動く日々は続きそうです。

もちろん、何歳になっても精力的に外側に向かって動く方はたくさんおられるでしょうし、いつまでも少女のようなキラキラの瞳と好奇心を保ち続ける方もおられるでしょう。それはそれ、その人たちの人生のタイムテーブルであり、自分でその流れに沿って生きていければ何も問題はないと思います。一昔前のように「いい歳をしてみっともない」とか「いい加減、落ち着いたらどうなんだ」といった感想を、第三者が投げつけることなど、言語道断でしょう。今回の私の感覚はあくまでも私だけのもの。そして、その感覚から導き出していく未来もまた、私だけのもの。誰に押し付けるつもりもありません。これからも、マイペースで動いて行くのは間違いありませんので、大丈夫です。

これからは、歳を取った魔女の視点からの発信も増えて行くと思います。どうぞお楽しみに。あ、最後にあと一つ!私が思うにクローンの一番重要(?)な仕事は、あれですよ、あれ、今時の若い人は、というお小言を上手につぶやくことですよね?!ええ、頑張って迫力と根拠のある小言を吐けるクローンになるよう、修行を続けます!イーヒッヒッヒッ!!

著者について

ヘイズ中村は子供の頃から神秘の世界に魅せられ、長じて占い師、魔術研究家になりました。とくにトート・タロットに惹かれて『決定版・トート・タロット入門』も執筆しました。隙間時間には下手の横好きなレース編みをしたり、異次元に想いを馳せられるSF映画など楽しんだりしています。

ヘイズ中村は下記のサイトでも活躍しています。ご意見や質問などお待ちしております!