まずは神話の学習を
精神世界の始まりも神話から
前回のブログでは、魔術や占術を学習するには、そのための専門書を読んでいるだけでは知識が不足する、とお話ししました。今回はその続きです。できるだけ偏らず、そしてあまり回り道をしないでも必要な基礎知識を吸収できそうな本を紹介してみました。今回は主に神話を扱っているものを紹介していきます。一度読み始めれば、意外に楽しめるはずです。
注意してほしいのは、この後の記事で紹介する書籍についても同様ですが、「漫画でわかる〜〜神話」とか「五分で読める〜〜」といったダイジェスト版は避けることです。神話類は大抵の場合、分厚かったり文字が細かいものが多いのですが、それくらいで怯むのはやめましょう。手抜きをすれば、あなたの知識はそれだけ穴だらけになります。穴だらけの基礎の上に、どんな建物が立てられるのか、想像は難くないでしょう。また、読むのが面倒だからと素人が適当にまとめた動画サイトなどで省略された情報を漁るのも、無駄を超えて害があるだけです。どうしても文字だけではイメージが広がらなくて辛いという場合は、NHK や BBC などが作成した教育番組を見るのがお勧めです。エキサイティングではないでしょうが、少なくとも誤った情報は少ないでしょう。
そんなの大変だ、つまらない、もっと簡単な方法を紹介してほしい。ここまで読んでそう感じた人は、ここから先を読まなくても構いません。その昔ギリシャの数学者ユークリッドが、エジプト王プトレマイオスに「もっと簡単に幾何学を学ぶ方法はないのか」と聞かれ、「幾何学に王道なし」と答えたといわれますが、その通り、学問に王道はありません。
インスタント魔術と呼ばれる魔術分野に陥らないでください。ちょちょっと知識をつまみ食いして、適当に混ぜて、あとはそれらしい呪文とそれらしい衣装で満足する魔術。私が出会った最初の正統な師、マリアン・グリーン女史が厳しく諌めている考え方です。それから長い月日が経ちましたが、私もその考え方は変わりません。もちろん、現代ではもっと簡単な方法を薦める人も多いでしょうし、あと何年かすれば映画『マトリックス』のように、頭に直接ジャックインして情報をダウンロードできるようになるかもしれません。それはそれでかまいませんが、その結果がどうなるかは、まだ検証できるほどの時間が経っていません。ここではより伝統的で確実な方法を紹介していきます。
ということで神話です
最初に頭に入れておきたいのは、さまざまな宗教的思想です。別に信者になる必要はありませんが、神話世界やさまざまな神々の基礎的な知識は必須なのです。ある程度時間軸に沿って並べていきましょうか。まずは「エジプト神話」です。ゴールデン・ドーンから始まり、近代西洋魔術には多くのエジプト神が登場します。イシスとマリアの類似性など、後々のキリスト教などへの影響も決して無視できません。エジプト神話に関しては色々な書籍が出ていますが、漫画などを除いて考えると、ちくま学芸文庫あたりが無難かな、と思います。近隣の図書館で何冊か借りてみても良いでしょう。
次はお馴染み「ギリシア神話」です。占星術に出てくる星座の名称、星の名称、そして魔術儀式の原型ともいわれる「エレウシスの儀礼」でも、ギリシア神話の果たす役割は巨大です。ギリシア神話には岩波文庫、新潮文庫など手に入りやすい本格派の書籍がありますから、古本屋さんでもいけそうです。できれば大元ともいわれるヘシオドスの『神統記』にも挑戦しましょう。ついでといってはなんですが、ブルフィンチの『ギリシア・ローマ神話』も制覇して、ローマ神話との微妙な差を学んでおくのがお勧めです。
その次の時代では『聖書』の出番がやってきます。これは旧約・新訳ともにウェブにありますから、それを使っても良いでしょう。聖書は西洋魔術と西洋文明の土台になっている思想がぎっしりと入っています。なにかと手に取って調べる必要が出てきますから、サイトならばブックマークを。書籍ならば手元にすぐ取れるようにしておきましょう。余力が出てきたら、さまざまな聖書外典や偽典にも目を通しておくと、天使の名称などの起源もわかりますから、興味深いと思います。とはいえ、外典などはずっと後でも構いません。
ヘレニズム文化圏も
厳密にいえば、聖書より早い時期のキリスト教の影響を知るには「グノーシス」の宗教や神話も重要になってきます。主にナグ・ハマディ文書と呼ばれる文書群に載っている物が多いのですが、どれも難解であり、すぐに理解するのは難しいでしょう。興味があったら、一般的なグノーシス教の解説書籍に目を通しておきましょう。特にタロット・カードなどに頻出する「世界卵」の概念の理解には必須です。
かの有名な『ヘルメス文書』は不要なのか?という声が聞こえてきそうですね。学習の初期には省いても良いと思いますが、余裕があったら、読んでください。ただ、その名称からダイレクトに魔術の知識が学べると誤解されがちですが、実際にはグノーシス主義に近い思想でもあります。日本語の書籍はプレミア価格で非常に高価なので、図書館で探すか、英語の書籍を手に入れるのが現実的です。
西洋文化圏での宗教は一応、こんなところでしょうか。って、ここで安心してはいけません。魔術は貪欲な学問であり、さまざまな文化を飲み込んで大きくなってきているのを忘れてはいけません。ということで、他文化圏の宗教にも続いていきます。
最小限の東洋神話も
インド哲学の『ウパニシャッド』や『パガヴァッド・ギーター』は、大抵の図書館にあるはずです。中華思想の『易経』も必読ですね。この場合は易占いの本ではないので、お気をつけて。仏教は私たちにとって身近であるようでいて、意外に本質はわからないものの一つですから、詳しく語られている『ミリンダ王の問い』などがお勧めです。イスラム文化圏も学ぶべきでしょうけれど、ダイレクトに魔術に流れているのは、古代のペルシア文化の方が多いような気もします。ここはまだ研究の余地がありますね。
目が回りそうな気分、息切れがするような心境になって、もう面倒だから『聖・お兄さん』でいいや、なんて考え始めたあなた、気持ちはわかりますがそっちへ逃避してはいけません。少し柔らかい物が読みたいのであれば、ミルトンの『失楽園』や、アプレイウスの『黄金のロバ』などで一息ついてください。ときどき、『千夜一夜物語』を少しずつ読んで息抜きするのも良いでしょう。もちろん、他の漫画やアニメを一切見るな、なんていいません。でも『聖・お兄さん』を読んだからもういいや、ということにはならないのを覚悟してください。
先行きが思いやられる、ですか?今回挙げたのは冷静に数えれば十冊程度にすぎません。なので意気消沈しないで、まずは始めてみましょう。